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2026年3月24日公開

ブランディングを成功させるメソッドとは。
デザインワークショップで設計される企業変革の道筋【後編】

企業変革から「日本最南端の日本酒造り」を目指す、沖縄県・西原町の酒販企業、南島酒販。変革への第一歩として、コンサルティングファームのデロイトトーマツ、クリエイティブカンパニーのスティーブアスタリスクと協働し、自社ブランディングを目的としたワークショップを2025年12月に開催した。2日間に及んだワークショップで、南島酒販にどのような変化が生まれたのか。

3社の出会いからワークショップ実施に至るストーリーを振り返った前編に引き続き、後編では、ワークショップの内容とその反響に着目。ブランディング・ワークショップを主宰してきたエキスパートのメソッドを紐解きながら、参加者・関係者の率直な感想なども交え、コンセプト構築のポイントや、もたらされたインサイト、そして今後の展望までを掘り下げていく。

企業ブランディングに不可欠な「思考のクセ」への気づき

2025年12月、スティーブアスタリスク代表取締役の太田伸志は、初めて南島酒販の社員一同と相対した。場所は沖縄県那覇市、趣豊かなシーサーが出迎える南島酒販のオフィス。初対面で印象的だったのは「家族のような仲の良さ」だったと太田は振り返る。

太田伸志|株式会社スティーブアスタリスク 代表取締役社長

「ワークショップ参加者の構成に悩む企業は多く、マネージャー陣のみ、あるいは経営戦略室や若手だけに絞るケースは少なくありません。今回ほど部門も世代も多様な参加者が集まるのは珍しい。それでいて、みなさん自然に会話も生まれており、全社で一丸となる雰囲気は、すでにある程度できていると感じましたね」

この参加者設定は、南島酒販の代表取締役社長、大岩健太郎にとってもこだわったポイントのひとつであった。

大岩健太郎|南島酒販株式会社 代表取締役社長

「今回のワークショップは、参加者の属性をバラけさせることにトライしました。特定の部門や年代で固めた方が円滑な意見交換が期待できますが、その分、日常の延長になってしまって新鮮さがなく、一過性の盛り上がりで終わってしまう経験が多かったのです。元々、関係性がフラットな企業風土があったこともあり、このトライについてはあまり心配していませんでした」

参加者の属性を分散させた狙いは大きく2つ。1つは、企業変革に全社で取り組む雰囲気をつくっていくこと。もう1つは立場の異なる他者とのコミュニケーションから気づきを得ることだ。後者は、ワークショップにおけるメインテーマでもあり、その意図について太田は次のように語る。

「日本酒造りという新規事業のデモンストレーションとして、企画内容は『新しい商品アイデアを考えるワークショップ』と設定しました。でも何より大事なのは、一度自分の立場を離れ、他者の立場から気づきを得た上でアイデアを考えていくという、いわば『客観を経由して主観を表現する』思考のプロセスにあります。その布石として参加者属性をバラけさせるトライがあり、また企画内容にも相応の工夫を施しました」

初日は他者の立場に立つことを目的に、太田から「正解のない問い」が投げかけられた。お題は「行きつけの定食屋がテレビで紹介されて、突然行列店になってしまった。馴染みの店長にどうすべきか相談された場合、何と答えるか」というもの。

「予約制にすれば並ばずに食べられる」、「儲かっているなら何も変える必要はない」、「常連や従業員が離れていかないようにケアするべき」、次々と意見が出てくる。この時に重要なのは、自分の「思考のクセ」を理解することだと太田は説明する。

「店長、客である自分、自分以外の常連、従業員、あるいはお店のご近所さんや世論など、立場に応じたさまざまな価値観があり、正解はありません。その中で浮かんだファーストアンサーこそが、自分の『思考のクセ』です。

こうした異なる価値観をフラットにテーブルに並べ、自分の思考は何を優先しがちで、他の意見は何を優先した思考なのかを客観的に理解し、優先すべき価値観を整理していく。それこそがブランディングであり、これから取り組もうとしている自社ブランディングの一歩目のプロセスでもあります」

自分の価値観を、「思考のクセ」として相対化する。すると、異なる価値観が自然と視界に入ってくるようになる。このフラットな思考状態こそ、部門や世代を超えてともに企業としての価値観を考えるために必要不可欠なステップというわけだ。

次いで参加者に問われたお題は自社について。自分が大切にしている想いは何か、自社の本質的な強みや魅力は何かを相互に意見交換し、初日のセッションは幕を閉じた。

松浦宏樹|合同会社デロイトトーマツ シニアマネージャー

プロジェクトの運営を担当するデロイトトーマツの松浦宏樹は、「参加者の顔色」に着目してワークショップを見守っていたという。

「日本全国の中堅・中核企業に関わる中で、現場で出会う社員の方々の顔色にもさまざまなカラーがあることをいつも感じます。南島酒販の参加者はみな明るくポジティブな表情なのが印象的で、運営側のサポートがまったく必要ないほど活発に意見が飛び交っていました。元来の風通しの良い企業風土に加え、目的達成へのプロセスがクリアに設計されたワークショップ体験であったことが、新規事業への期待感の醸成につながっていったのかもしれません」

ワークショップの成果から見えてきた展望

2日目は、満を持して新商品のアイデア出しが行われた。泡盛の醸造過程でできる「もろみ粕」を絞ってつくられる、クエン酸とアミノ酸が豊富な健康飲料「もろみ酢」を活用したストロング系アルコール飲料など、沖縄ならではのユニークなアイデアで賑わいをみせた。

意見が多く出るのは望ましいことだ。しかし異なるすべての意見を盛り込んでしまうと、かえってコンセプトが曖昧になってしまう。「客観的に主観を整理する」という初日の成果は、豊富に挙がった個々の意見をスムーズにひとつのアイデアへと収斂した2日目の成果へとつながった。

2日間のワークショップは、南島酒販にどのような変化をもたらしたのだろうか。大岩は、「(日本酒醸造にあたって子会社化した)泰石酒造の名前が社内で頻繁に聞こえるようになった」と語る。

「自社ブランドとしてつくる新しい日本酒はどんなお酒になるのかな、どこにどんな値段で売ろうかなという感じで、新規事業が社員一人ひとりの中でより具体的なイメージとして共有され始めています。そうした意識が生まれると、既存事業の顧客と接しているときにも『この人は日本酒は欲しいだろうか』と機を伺えるようになり、販売チャンスを逃さなくなります。この感覚は、既存事業をこなしているだけでは得られないものなのです。

また、利益率の高い他の自社ブランド商品の営業意識も並行して高まるでしょう。そうして新しく利益が生まれれば、新規事業と既存事業の垣根を越えて、社員全体に公平に還元していくことができる。そうした成功体験を共有しながら、企業として成長していけたらと考えています」

2027年夏ごろの新商品販売を見据えたブランディング&マーケティング支援の準備を進めるデロイトトーマツの小島一郎は、大岩の展望に共感しながらも、「このワークショップは第一歩に過ぎません」と襟を正す。

小島一郎|合同会社デロイトトーマツ コンサルタント

「外部支援機関というと、『外から何か言うだけ』といった印象を持たれている中堅・中核企業も少なくないと思います。今回のワークショップのように、内部の“マーケティング責任者”として伴走するコミットを今後も継続していかなければなりません。同時に、当事者としての関わり方こそ、多くの中堅・中核企業さんに求められ支援のあり方ではないかと感じています」

この声に、大岩も同意する。

「正直なところ、“支援”といわれるとどこか他人事に感じてしまう企業も多いとは思います。そもそも、本当に支援が必要なら自ら申し出るはずですからね。私たちのように、『同じ船に乗ってくれるなら大歓迎』というのが中堅企業の本音だと思うし、この支援プロジェクトはそうしたニーズにしっかりと応えられるものになっていると感じます。

実際、その道のエキスパートがまさに同じ船に乗って協働してくれている今回の支援プロジェクトは、外部の力を知る、頼り方を知るという意味でも、とてもいい機会になっています」

大岩の言葉を聞いて、太田は深くうなずきながらこう締めくくった。

「デザインもコンサルも、うちにはいらないよね、関係ないよねと一見思われがちな職域かもしれません。ですが、外部の力の使い方を知ることで一気に業績を伸ばす企業は珍しくありません。今回のような取り組みが認知されていくことで、今回のような未来に繋がる出会いが増えていくと良いなと思います」