正解のない時代をしなやかに生き抜くために。「新聞社」の枠を超えた挑戦を続ける【後編】
地域社会の変化を最前線で捉え、発信を続けてきた北海道新聞社。だが、メディアを取り巻く事業環境の変化は厳しさを増し、既存のビジネスモデルだけで生き残れないことは明白だった。 このままでは存在意義を失ってしまう——。強い危機感のもとスタートした新規事業への挑戦。その傍らにはいつも、伴走支援を行う北海道共創パートナーズの存在があった。試行錯誤を重ねながら複数の新規事業を生み出し、同時に経営の意思決定プロセスの改善にも着手してきた。 2025年からは「北海道新聞社の未来」を描く新たなプロジェクトが始まり、ここでも北海道共創パートナーズが伴走役に。北海道新聞社は「新聞社の枠を超え、挑み続ける未来共創グループへ」という新たなビジョンを掲げ、さらなる挑戦を続けている。 8年間におよぶ伴走支援は、北海道新聞社にどんな変化をもたらしているのか。後編では、これまでの歩みを振り返りながら、中堅企業におけるトランスフォーメーションのあり方に迫る。 厳しい現実と向き合いながら、新たな未来を描く 北海道共創パートナーズによる伴走支援のもと、北海道新聞社はスタートアップ支援、人材マッチングサービス、ふるさと納税支援など、複数の新規事業を立ち上げ、事業領域の拡大を続けてきた。また、社内の意思決定プロセスの改善により、スピード感を持って新たなチャレンジができる環境が整いつつある。 果敢に攻めの姿勢を続ける一方で「危機感はむしろ年々増している」と語るのが、新規事業推進部門を管掌する三浦辰治だ。 「ここまで来たからといって、決して安心できる状況ではありません。だからこそ、これからも挑戦を続けなければならない」 その思いが結実したのが、2025年にスタートした「北海道新聞社の未来」を考えるプロジェクトだ。 このプロジェクトでは、2050年を見据えて北海道新聞社はどうあるべきか、描く未来に向けてどんなアクションをとるべきか、長期的な視点で考え、新たな指針を見出すことを目指した。 2025年11月末の住民基本台帳によると、北海道の人口は499万人。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2050年には100万人以上が減少し382万人になるとされている。 「あらゆる統計から厳しい現実を突きつけられている今だからこそ、未来に目を向け、どんな未来を切り開いていくべきかを前向きに考えたい」と三浦は話す。 700ページ超におよぶ「2050戦略」 「北海道新聞社の未来」プロジェクトでは若手や中堅社員など会社の未来を担うメンバーの声を反映すべく、はじめに議論の場が開かれた。北海道共創パートナーズが壁打ち相手となり、さまざまな意見が上がった。代表取締役社長の岩崎俊一郎もその場に参加し、その内容に大きな衝撃を受けたという。 「想像のはるか上を行くアグレッシブな意見がたくさん出て、経営層にどう受け止められるのかとドキドキするほどでした(笑)。さらに驚いたのが、経営層がそうした提案に対してGOサインを出したこと。この会社は現在進行形で変わろうとしているのだと実感しました」 岩崎俊一郎|株式会社北海道共創パートナーズ 代表取締役社長 2050年の北海道はどうなっているのか、産業はどう変化するのか、新聞の発行部数や広告収入はどれだけ減るのか、その中で北海道新聞社はどのような役割を果たすべきか——。何度も議論と分析を重ねた末に策定された「2050戦略」は700ページ超におよぶという。岩崎はそこに、北海道新聞社の本気度が表れていると力説する。 「新聞事業で発展してきた会社が、どのようにトランスフォームしていくかを真剣に考えた証が『2050戦略』です。既存事業だけでは補えない部分を新規事業で補完し、その先の成長につなげていくのか、絵空事ではなく本気で考え抜いています」 さらにこの戦略を具体化する形で、今後10年間のKPIを「道新Drive2035」として策定し、あわせて発表したのが、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)だ。ビジョンとして掲げられたのは、「新聞社の枠を超え、挑み続ける未来共創グループへ」。 「私たち自身、大胆な宣言だと感じていますが、それだけ『変わらねばならない』と大きな危機感を持っているということです。『2050戦略』や『道新Drive2035』のキーワードの一つに『両利きの経営』があります。深化と探索、つまり既存事業と新規事業にバランスよく取り組むという考え方が社内で浸透しつつあります。新規事業もやるし新聞“も”つくっている――。それくらいの意識改革が必要だと感じています」 三浦辰治|株式会社北海道新聞社 常務取締役営業統括本部長、デジタル戦略担当 一方で、「ここで満足してはいけない」と三浦は強調する。 「変わりたいと心から願うなら、自分たちにはない知見を持つ外部の方々と積極的にコミュニケーションを続け、多様な意見を取り入れることが不可欠です。私自身、記者として長年現場に足を運んできた経験から、世間のことを知っているつもりになっていましたが、岩崎さんのように新たな視点をもたらしてくださる方と話していると“井の中の蛙”であることを痛感します」 経営層から社員まで、外部との接点を増やし、部門を越えた議論を活性化させることで、新たな化学反応が生まれる。そのためにも、個人も組織もオープンマインドにしてコラボレーションの可能性を広げていきたいという。 “アンビシャス”を合言葉に新たな挑戦へ 2018年から始まった北海道共創パートナーズによる伴走支援は、新規事業立ち上げ、経営の意思決定プロセスの改善、長期戦略およびMVVの策定と多岐にわたる。なぜここまで幅広い支援を手がけてきたのか。北海道共創パートナーズの思いを聞いた。 「私たちは普段、道内の中小企業を中心にご支援しているのですが、そうした経営者の方に多いのが『圧倒的にリソースが足りない』というお悩みです。 一方、東京でコンサルタントとして活動していた際は、大企業とのお付き合いが多く、『明確な階層構造がある中でスピーディーな意思決定をするのが難しい』というお客様の課題に向き合っていました。 北海道新聞社は、中小企業と大企業の間の中堅企業として、リソース不足と意思決定プロセスの両方に課題を抱えていました。『こうすればうまくいく』という決まりきった型がないからこそ、中堅企業ならではの支援のあり方を考え、柔軟な伴走支援を行うことができているのだと考えています」 現在も新規事業推進に力を入れている北海道新聞社。 2024年に設立したふるさと納税支援を行う株式会社ファーストリープは、社内の新規事業提案制度をきっかけに誕生した。北海道共創パートナーズは、事業化検証の最終段階でのブラッシュアップ期間に伴走する専門家として参画し、提案者に寄り添った。 また、北海道新聞デジタルの姉妹サイトとして立ち上がった、地域に密着した経済情報発信サイト「道新BIZ」もまた、新規事業提案制度を機にスタートした。「提案したのは若手社員の方で、熱量がすさまじかったですね」と岩崎は振り返る。ほかにも現在、水面下で進めている新規事業プロジェクトが複数あるという。 2025年には、これまで新規事業推進を担ってきた「ビジネス開発本部」を「アンビシャス・プロジェクト推進室」に名称変更した。命名したのは三浦本人だ。 「野心さえあればどんなアイデアも大歓迎」という新規事業への前向きな姿勢を示したかったと語る三浦。「せっかくなら面白い名前のほうがいいじゃないですか」とにこやかに笑う。 正解は与えられるものではなく、自ら導き出すもの 8年間にわたる二人三脚の歩みは、北海道新聞社に何をもたらしたのか。これまでを振り返り、三浦の思いを聞いた。 「自分たちの力だけではできないことがあるのだと、身をもって教えていただきました。決まりきった正解がない時代を生き抜いていくには、実現したい未来に向かって何をどうすればいいのか、一緒に“正解”を考えてくれるパートナーが必要です。 成功も失敗も、挑戦しなければ始まりません。その最初の一歩を踏み出す勇気を北海道共創パートナーズからいただいていますし、これまで積み重ねてきたことの全てが未来へのステップになるという確信があります」 両社の取り組みを振り返る上で欠かせないのが「自前主義からの脱却」だが、一方で外部の企業や人材を活用することに少なからず抵抗感を持つ企業もあるだろう。 実は両社がコミュニケーションを始めた当初、岩崎は北海道新聞社より「コンサルに否定的な社員もいる」と打ち明けられたという。 「安定した事業基盤があり、プロパーや定年まで勤め上げる社員が多い企業は、外部から入ってくる私たちのような存在を警戒することは少なくありません。 ただ、北海道新聞社の皆さんとは、互いにとってどういう付き合い方がいいのか、一緒に模索する中でゆるぎない信頼関係を築けていると感じます。実際に、新規事業立ち上げの伴走支援では、アイデアが形になっていない初期段階から関わるケースもあれば、ファイナンシャルアドバイザーとして参画しているものもあります。 外部の企業や人材に対して、まずは使ってみて、自分たちに合った使い方を見つけられたらいい、それくらいのライトな気持ちでも良いのではないかと感じています」 岩崎の言葉に、三浦がこう続ける。 「新規事業が生まれ、社内の仕組みが改善され、確実に結果が出ていることが当初の不安を払拭してきたのだと思います。何より気軽に相談できる相手がいることがどれだけありがたいかを社内の多くのメンバーが実感していますから」。 中堅企業ならではの支援の形がある 最後に、同じ中堅企業に伝えたいことを尋ねると、「地域の企業が抱える課題に一緒に向き合ってくれる“お隣さん感覚”で付き合えるパートナーをぜひ見つけてほしいですね」と三浦は語る。 一方、北海道新聞社への伴走支援を続けてきた岩崎も、実感を込めて次のように語る。 「中堅企業の支援というのは、正論だけではうまくいきません。ロジックやファクトを整理することはもちろん大切ですが、それ以上に、一緒に悩んで汗をかいて、障壁を取っ払いながら正解を見つけていく姿勢が欠かせないと思います。そういった密度の高い関わりこそが、中堅企業支援の醍醐味ではないでしょうか。 これからも北海道新聞社の未来を共創するパートナーとして伴走支援を続けていきたいと思います」 インタビュー終了後、「実はご相談したい案件があって…」と新規事業に関する相談を始めた三浦。アイデアの内容や提案者の思いを伝える三浦の言葉に岩崎は真摯に耳を傾け、アドバイスを伝えながら話を前に進めていく。両社のフラットな関係性と日頃のコミュニケーションが垣間見えるシーンだった。 伴走する側、される側という関係を超えた「未来を共創するパートナー」。そんな言葉がふさわしい両社が、地方新聞社のトランスフォーメーションの新たなモデルを確立することに期待したい。







