外部専門家のアドバイスが突破口に。「なぜ」を問い続け、新規事業の成功確度を高める【後編】
三島市を拠点に地方ゼネコンとして建設業に従事する一方、事業の多角化を続けてきた加和太建設。2024年6月には「グリーンテック事業準備室」を立ち上げ、環境という未知なる分野での新規事業創出へのチャレンジを始めた。 代表取締役社長の河田亮一は、ベテラン社員であり土木のプロである天野謙一郎を立ち上げメンバーとして指名。天野は地道に情報収集を重ね、慣れないアイデア出しに挑むも、なかなか前に進まない状況に焦りを感じ始めていた。 そんな天野のサポート役を見つけるべく、河田は中堅・中核企業支援プラットフォームの支援プログラムを利用。そこで、カシオ計算機に35年以上勤務し、新規事業創出に関して豊富な知見を持つ井口敏之とのマッチングが成立し、井口の伴走が始まった。 建設業の枠にとらわれることなく事業の多角化に取り組み、順調に成長を続けてきた地方ゼネコンが、なぜ今新たな領域に挑むのか。後編では、さらなる挑戦の日々を振り返る。 自分たちが取り組む意義はどこにあるのか 2024年10月から井口が伴走するようになり、思考の整理が進むと、天野は混沌期を脱することができた。事業者や行政などステークホルダーへのヒアリングにも熱心に取り組み、当初は複数あったテーマの絞り込みをかけ、「下水汚泥の活用」に着目した。 だが「加和太建設が取り組む意義はどこにあるのか」と社長の河田に問われ、天野は答えに窮した。「何ができるか」だけでは足りない。「なぜやるのか」を説明できなければ、誰もついてきてはくれないのだ。新規事業の難しさを知る井口はこう語る。 「『このアイデア良いかも』と思ったら、本当にそれで良いのかを問い直す必要があります。新規事業を立ち上げて継続していくには経営理念とベクトルが合っている必要がありますし、社内外の人を巻き込めるほどの魅力的なテーマかどうかも重要です。 『なぜやるのか』は遅かれ早かれ問われること。どんな場面でも自信を持って答えられる、北極星のような道しるべがはっきりと見えるまで考え続けなければなりません」 井口敏之|カシオ計算機株式会社で新規事業を担当したのち、現在は中堅・中小企業の新規事業開発を顧問として支援 「なぜ」を繰り返し問い続けるには忍耐力が必要だ。アイデアが浮かんだら、少しでも早く事業化し収益を生み出す「未来」のことを考えたくなる。だがやみくもに走り出しても結果は伴わない。「原点」に立ち返って考え直さなければならないと天野は気づかされた。 「とにかく早くテーマを見つけて事業化し成果を出したいという焦りがありました。これまでは土木の現場で収益を生み出してきただけに、何も生み出せていない状況にジレンマを感じていたのだと思います。けれど井口さんに『事業がある程度大きくなった時になぜやるのかをしっかり説明できないとダメになる』と言われてはっとしました」 アイデアを出しては「なぜ」を問い続ける日々。なぜ今やるのか、なぜその事業者と組むのか、なぜ勝算があると思えるのか――。そうした問いの一つひとつに自分なりの答えを出し、ブラッシュアップを重ねる地道な作業が続いた。 そんな天野の姿を見ていた河田は、当時をこう振り返る。 「毎日苦しそうでしたが、その分大きく成長したのではないでしょうか。私からも井口さんからもあれこれ質問されてうまく答えられなくて、相当きつかったはずです。それでも諦めずに根気強く自分のミッションと向き合ってくれました」 ステークホルダーとの対話が方向転換のヒントに 繰り返し検討を行った結果、「下水汚泥の活用」というテーマはそのままに、取り組み内容を変えることになった。はじめは下水汚泥を堆肥化して再利用することを考えていたが、事業計画を立ててみると採算がとれないことが判明し、仕切り直すことになったのだ。 続いて検討を始めたのが、メタン発酵を使った処理方法。微生物の働きによって下水汚泥を分解するものだが、メタン発酵には多くの種類があり、日本ではまだ実現されていない発酵方法も含めて天野は調査を重ねた。全国のメタン発酵処理施設を訪れて処理が行われている現場を視察すると新たな課題が見え始め、このアイデアも保留となった。 「これだ」というものが見つからない――。再び焦りを感じ始めた天野だが、また新たなアプローチを見出した。きっかけは、ヒアリング先の一つである汚泥処理装置メーカーに、汚泥からガスを抽出する方法があると話を聞いた時のこと。抽出したガスを地域に供給し、人々の暮らしを支えることができれば、意義ある事業になるのでないかと天野は考えた。 さらに下水汚泥からガスを抽出すると、最後には純度の高い炭が残るという。この炭を肥料やゴム製品などの原料として活用できれば、サーキュラーエコノミーへの貢献につながる。行政の担当者に提案したところ「ぜひ頑張ってほしい」と応援の声が届いた。 現在は、下水汚泥活用のために必要なシステム構築や、連携を図る事業者とのコミュニケーションを進めている天野。 「あと一つ、二つくらい壁を越えれば新たなステージに進めるのではないかと期待しています」という河田の言葉に、天野は「またすぐに次の壁が立ちはだかることでしょう。でもいろいろなことを経験して何事も乗り越えられる自信がつきました」と笑顔で語る。 天野謙一郎|加和太建設株式会社 執行役員 「新規事業創出はアップダウンの激しいジェットコースターのようなもの」と井口が言うように、課題を一つ乗り越えたら、また次の課題がやってくる。決して平坦ではない道のりだが、担当者が強い思いを持ち続けること、どんな時も支えてくれる味方がいることは、新規事業創出の大きな原動力となることが分かる。 多様な人のつながりから生まれる相乗効果 加和太建設の挑戦に井口が伴走した半年間を振り返り、河田は手応えを語る。 「新規事業の考え方や『なぜ』と繰り返し問うことの重要性を学ばせてもらいました。『これをやればうまくいくよ』という小手先のアドバイスだったら、天野が自力で壁を乗り越えることはできなかったでしょうし、現在地までたどり着くことはできなかったのではないかと思います。井口さんに伴走いただいて本当によかったです」 さらにグリーンテック事業を担当するメンバーが一人増え、現在は天野を含めて2名体制となり、2026年4月からは3名体制となる予定だ。 新メンバーはいずれも社外の人間。加和太建設がグリーンテック事業に取り組んでいることを知り、アカデミアでの研究活動の実績を活かして「ぜひ一緒にやりたい」と自ら声をあげてくれたという。多様なメンバーと協働することの意義について河田はこう話す。 「グリーンテック事業の立ち上げを外部に発信することで、興味を持った人や一緒に取り組みたい人が来てくれるようになりました。そこで新たな検討が進み、地域資源を活用した小水力発電など、下水汚泥活用とは別の事業の可能性も見えてきています。 また、当初検討していた下水汚泥の堆肥化についても、新しいメンバーが持つアカデミアとのネットワークを活かして進展させられる可能性が出てきました。天野を中心にメンバーの力によって取り組みの幅が大きく広がっています」 河田亮一|加和太建設株式会社 代表取締役社長 「人の多様性によってもたらされる影響は大きい」と井口が続ける。 「新規事業に向いている人材とは、指示を待たずに自ら動く人です。ボートで例えるならエンジンの役割を担う人ですね。さまざまなエンジンを持つ人が集まり、力を合わせることで期待以上の相乗効果が生まれるはずです。 天野さんの役割は、目的地に向かってボートを操縦し、しっかりと前に進むこと。経営の視点を持って稼ぐ力を高め、収益を生み出す循環を回していくことが今後の課題となるでしょう。河田社長という強力な応援団長がいますから安心して挑戦を続けてほしいです」 井口による伴走期間は半年間で終了したが、現在も天野とオンラインでやり取りを重ねているという。「天野さんが自信を持って前に進んでいらっしゃることが伝わってきます。半年間一緒に取り組む中で、異なる考え方や方法論を吸収しながら次へ向かって行く強さを身につけられたのでは。事業化が実現する日を楽しみにしています」。 新規事業には「情熱」と「環境」の両方が必要 グリーンテック事業が収益を生み出すにはまだ時間が必要だが、取り組み開始から1年半で着実にプロジェクトは成長を遂げてきた。ここまで来ることができた要因は何なのか。天野は「突き詰めて考える癖がついたことが大きい」と話す。 「井口さんに支援いただき、新規事業に対する考え方や方向性を定められたことは大きな転機になりました。また、自分が主体となって課題を見つけ、じっくりと考えられる環境を整えてくれた河田社長にも感謝しています」 河田も、天野の成長を実感している。 「天野の粘り強さには本当に驚かされました。自分が言語化できていないことを一つひとつ明らかにする作業は、とてつもなくしんどいと思います。答えがなくても言葉にしようと努力し続けたことが、どんな壁にぶつかっても乗り越える力になっているのではないでしょうか。 また、天野自身が『稼ぎを生み出せていない』というジレンマを抱えながら取り組んでいることも結果としてよかった。情報を集めて研究して満足するのではなく、『事業として成立させなければ』という強い思いがあるからこそ前に進めているのだと思います」 一方で、新規事業創出には大切なことがあると続ける河田。 「やはり時間とお金を出し惜しみしないことですね。天野は全国各地に足を運び、たくさんの人に会って対話を重ねてきました。そのおかげで、一見関係のなさそうな情報やアイデアをつなげて新しい可能性を見出すことができています」 河田の言葉に、井口は大きくうなずいてこう話す。 「新規事業の立ち上げは、経営側の覚悟にかかっていると言っても過言ではないでしょう。なぜ新規事業が必要なのか、根本的な部分がぶれない会社は強いと思います。そして天野さんのように強い意志を持ち、愚直に進む力を持つリーダーがいること、さまざまなアドバイスを取り入れながら視野を広げて柔軟に考えることも大切です。 新規事業創出は『考えた量』が成功確率を上げます。考えている量が多ければ多いほど、誰にも論破されず、どんな厳しい状況でも立ち続け、自走する力がつくからです」 中堅企業の成長で日本を元気に 最後に中堅企業に対してのアドバイスを求めると、河田は迷いのない表情で思いを語る。 「中堅・中核企業が成長していく必要性を、経営者自身が本気で考えてほしい。地域の中では競争が少なく、現状維持でも生き残れるかもしれません。しかし、さらなる成長を求め、新しいことに挑戦する意味を真剣に考えてみてほしいのです。 地域をより良くし、産業構造を変えていかなければ、大きな構造変化の中で立ち行かなくなることは明らかです。志を持って、自分から見える範囲を越えたところに打って出てみることが、経営者にとっても会社にとっても、社員にとっても大きな学びになります。 たとえうまくいかなくても自分たちが何者なのかを振り返り、何が足りないのかを知ることができるのだから、そこからまた新たな挑戦を始めればいい。一人で抱え込まず、さまざまな人の力を借りながら進めていけばいいのではないでしょうか 河田が話す通り、今回の取り組みでは、外部のプロフェッショナル人材の活用がプロジェクトを前進させたことは明らかだ。その当事者である井口は、中堅企業に寄り添うことに大きなやりがいを感じているという。 「さまざまな企業の方と話をする中で、皆さん同じような悩みを抱えていることが分かります。多様な知識を持ち、失敗や成功を経験してきた人材が活用される場が広がれば、人の循環が生まれ、日本全体の成長につながっていくのではと期待します。企業の皆さんにはぜひ積極的に外部の知見を取り入れ、新しい成長ストーリーを描いてほしいと願っています」







